「見立て」とは何か — 相談者の話を3つの層で聴く
「この相談者を、どう見立てましたか?」
口頭試問でこの質問をされたとき、答えに詰まったことはないでしょうか。
面談中は一生懸命聴いていたはずなのに、いざ言葉にしようとすると「悩んでいました」「転職を考えているようでした」以上の言葉が出てこない。聴くことはできた。でも、聴いたものをどう整理すればいいかが分からない。
「相談者を理解する」とはよく言われますが、具体的に何をどう理解すればいいのか、明確に語ることはなかなか難しいのではないでしょうか。ここがぼんやりしたまま面談に臨むと、15分間の中で自分が何を掴もうとしているのかが見えづらくなります。
別の記事で「面談には構造がある」という話を書きました。あれが「時間軸の地図」だとすれば、見立ては「相談者の内面の地図」にあたるものです。時間の地図と内面の地図、両方があると、面談の中で自分がどこにいるかが少し見えやすくなるように思います。
この記事では、見立てを「3つの層」に分けて考えてみます。
第1層:主訴 — 相談者が言葉にしていること
まず最初の層は、相談者が自分の言葉で語っている悩みです。
「仕事にやりがいを感じられない」「転職を考えているけど踏み出せない」「上司との関係がつらい」——こうした相談者の言葉を、そのまま受け取る層です。
ここを聴き取ること自体は、多くの方が練習の中でできるようになります。相談者が何に悩んでいるのか、表面的な輪郭を把握する作業です。
ただ、主訴を聞いた「だけ」では、見立てにはなりません。主訴は見立ての入口であって、全体ではないからです。口頭試問で「お悩みを聴くことができました」だけだと、見立てとしてはまだ薄い。その先に何が見えていたかが問われます。
この層で大切なのは、相談者の言葉をそのまま使って返すこと。「やりがいがないと感じていらっしゃるんですね」と返すことで、主訴の輪郭を相談者と一緒に確認する。この作業が、次の層に進む手がかりになります。
第2層:深層の課題 — 言葉の奥にあるもの
2つ目の層は、主訴の裏にある「なぜこの人は、この悩みを抱えているのか」という構造です。
たとえば、「転職したい」という主訴があったとします。その裏側を見ていくと、「自分には特別なスキルがない」という自己評価の低さがあるかもしれません。10年の経験を「誰にでもできることをしてきただけ」と一括りにしてしまう認知の偏りがあるかもしれない。あるいは、家族の言葉を「突き放された」と受け取ってしまう孤立感が、転職への不安を大きくしているかもしれません。
第2層は、相談者自身がまだ自覚していないことも含まれます。自分では気づいていないけれど、話しているうちにだんだんと輪郭が見えてくるもの。だからこそ、ここに触れるには相談者との信頼関係が必要です。安心して話せる場が整って初めて、表面の言葉の奥にあるものが少しずつ顔を出してきます。
15分の面談で、第2層の全てを把握する必要はありません。「どうやらこのあたりに何かありそうだ」という仮説が持てれば、それだけでも意味があります。口頭試問で「今後、面談をどう進めたいですか?」と聞かれたときに、「この方の自己評価の低さの背景をもう少し一緒に見ていきたい」と答えられるかどうか。そこに第2層の感覚が表れます。
面談中の手がかりになるのは、相談者の言葉の中にある「矛盾」「繰り返し」「感情が動いた瞬間」です。同じ話題に何度も戻ってくる。言葉と表情がずれている。ある話題になったときだけ声のトーンが変わる。——こうしたサインが、第2層への入口になります。
第3層:相談者のリソース — 既に持っているもの
3つ目の層は、見立ての中で見落とされやすいけれど、とても大切な部分です。
相談者は「問題を抱えた人」として面談に来ます。でも同時に、「これまで何かを乗り越えてきた人」でもあります。相談に来ている時点で、その方にはすでに何かがあるわけです。
たとえば、「急ぎの案件のとき、先回りして対応したらありがとうと言われた」というエピソードが出てきたとします。相談者にとっては何気ない話かもしれません。でもそこには、状況を読む力や、周囲と連携する力が表れています。「10年間、仕事と育児を両立してきた」という事実の中にも、時間を管理する力や、困難な状況を続けてこられた粘り強さが含まれています。
相談者自身は、こうした力を「当たり前のこと」として見過ごしていることが多いです。「そんなの誰でもやっていることで」と。だからこそ、キャリアコンサルタントがそこに気づいて拾うことに意味があります。
リソースが見えているかどうかは、口頭試問で「今後どう進めますか」に答えるときの具体性に直結します。リソースを拾えていれば、「この方の○○という経験を手がかりに、一緒にキャリアの棚卸しをしていきたい」と語れる。拾えていなければ、「もう少し深く聴きたい」としか言えない。同じ「もう少し深く」でも、何を手がかりに深めるのかが見えているかどうかで、言葉の厚みが変わります。
面談中は、相談者が何気なく語るエピソードに耳を澄ませてみてください。スキルや強みは、「私にはこんな力があります」という形では出てきません。日常の一場面として、さらっと語られることが多いです。それを「当たり前」として流さずに拾えるかどうかが、第3層の感度になります。
3つの層をつなげる
ここまで3つの層を順に見てきましたが、これらは独立しているわけではなく、つながっています。
主訴(表面の悩み)の裏には、深層の課題がある。そしてその課題に向き合うための手がかりとして、相談者自身のリソースがある。この3つを自分の中でつなげられると、見立ての言葉が変わってきます。
たとえば、先ほどの例でいえば、
口頭試問での答え方が
「転職したいと悩んでいました」で止まるのと、
「転職を考える背景に自己評価の低さがあるようです。ただ、10年間の業務の中で周囲と連携する力やマルチタスクをこなす力を発揮してきた経験があり、ご本人はまだそこに気づいていない様子でした。まずはこの経験を一緒に振り返りながら、ご自身の強みを言語化していくことが次のステップになると考えました」
と答えるのとでは、面談に対する理解の深さについて、伝わり方に差が出ます。
見立ては「正解」を当てることではありません。「相談者の話を、今の時点でどう理解しているか」という仮説です。面談が進めば変わることもあるし、後から振り返って「あのとき見えていなかったものがあった」と気づくこともあります。
どんなに優れた冒険者も限られた時間や体力の中で、森の全ての道を一度に歩くことはできません。振り返って、あるいは後から地図を眺めて別の道に気がつくこともあるわけです。
見立てもそのようなものなのだと思います。
大切なのは、面談中に「この方は何に悩んでいて、その裏に何があって、何を持っているのだろう」という問いを持ち続けることなのではないでしょうか。
おわりに
見立ては、面談が終わった後に答え合わせをするものではなく、面談の最中にリアルタイムで形づくられていくものです。最初はぼんやりしていても、相談者の言葉を聴き続ける中で、少しずつ輪郭を帯びてくる。
完璧な見立てを最初から持っている必要はありません。15分の面談の中で、3つの層のどこまで見えたか。見えなかった部分はどこか。それを自分の言葉で振り返れるようになることが、見立ての力をつけていく道ではないかと思います。
自分の面談を振り返るとき、逐語録を使って3つの視点で読む方法も参考になるかもしれません。見立ての3層と組み合わせると、「聴けていた部分」と「見落としていた部分」が具体的に見えてきます。
また、面談のスキル面で課題を感じている方は、課題パターン別の処方箋も合わせて読んでみてください。見立ての力とスキルの力は、別々のものではなく、一緒に育っていくものだと思います。
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